事件番号:JP2019-0001

                裁 定

  申立人:
  氏名(名称):ムーミン キャラクターズ オサク ユキチュア リミテッド
  住所:フィンランド共和国 00180 ヘルシンキ サルミサーレンランタ 7エム
  申立人代理人 
  氏名:弁護士山本健策、弁護士福永聡、弁護士井髙将斗、弁護士難波早登至

  登録者:
  氏名(名称):株式会社ユー・コム
  住所:横浜市都筑区中川一丁目19番26号中川イサワビル2F
  登録者代理人
  氏名:弁護士岡徹哉

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン
名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理
方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提出された証拠に基づ
いて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  本件申立を棄却する。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「MOOMIN.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。
4 当事者の主張
 a 申立人
  本申立書の提出日である平成31年1月29日現在、上記の紛争に係わるJPドメイ
ン名である「MOOMIN.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)はJPRS(株式会
社日本レジストリサービス)に登録されている。
 申立ての根拠となる申立人の登録商標は、登録第4616787号商標「MOOMIN
\ムーミン」(出願日平成10年12月2日、商願10-102644、登録日平成14年
11月1日)、および国際登録第1270967号商標「MOOMIN」である(出願日平
成26年12月4日、国際登録日平成26年12月10日、「申立人登録商標等」という。)。
なお、申立人は、「MOOMIN.COM」を有し、さらに、株式会社タトル・モリ エイジェンシー
を介して「MOOMIN.CO.JP」を有している。
そして、申立人は、公式オンラインショップにおいて、申立人登録商標を含む「MOOMIN」
関連商標を、枕や布団などを含む数多くの商品の販売にあたり使用している。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と
同一または混同を引き起こすほど類似している、(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する
権利または正当な利益を有していない、および(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的
で登録または使用されている。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
b 登録者
  申立人が主張する上記(1)、(2)、(3)は何れも認められないので、適切なご判断
を頂きたい。

5 争点および事実認定
A 本件ドメイン名の紛争処理に適用すべき判断基準について
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則に
ついてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果
に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい
る。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と
同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること

B 処理方針第4条a項各号についての当紛争処理パネルの判断
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標そ の他表示
と同一または混同を引き起こすほど類似していること(処理方針第 4条a項ⅰ号)
(Ⅰ)申立人の主張
  ア 登録商標に関する正当な利益を有していること
   申立人は、申立人登録商標を含む「MOOMIN」関連商標を有している。また、申立人
は、日本において、申立人登録商標以外にも「MOOMIN/ムーミン」を含む登録商標を数多
く有している。そして、申立人登録商標を含む「MOOMIN」関連商標は、申立人の長きに渡
る営業努力により需要者の間に広く認識され、遅くとも本件ドメイン名が登録された平成
14年6月13日の時点では、著名なものとなっている。なお、申立人登録商標における第
4616787号商標「MOOMIN\ムーミン」は、特許庁が提供するJ-PlatPatにおける「日本国
周知・著名商標検索」としてリストアップされている。
 申立人登録商標を含む「MOOMIN」関連商標に著名性が認められることを示唆する審決例
として、平成14年5月8日特許庁無効審決(平成11年審判第35129号事件)が挙げられ
る。当該審決は、商標法4条1項15号所定の「商品の混同」を認定するにあたり、下記の
とおり判示する。
                  記
「ムーミン」の語は、本件商標の登録出願時(平成4年10月7日)には、トーベ ヤンソ
ン氏の著作に係る「ムーミントロール」の略称、ないしテレビアニメーションのキャラク
ターを表すものとして、需要者の間に広く知られていたものというべきである。
 また、平成18年5月19日特許庁異議決定(異議2005-90216)は下記のとおり述べてい
る。
                   記
「ムーミン」に係る標章は、・・・申立人の業務に係る各種商品や役務を表示するものと
して、本件商標の登録出願時(平成16年6月18日)においては既に、我が国における幼
児及びその保護者を含めた幅広い取引者・需要者の間において広く知られていたものと認
められ、その著名性は登録査定時(平成16年12月16日)においても継続していたものと
いうことができる。

 このように、特許庁は、申立人の「MOOMIN/ムーミン」について、一貫して著名なもの
と認定している。

 なお、昭和44年に、フジテレビ系列にて「MOOMIN/ムーミン」のカラー放送が行われ、
その後も長きにわたり数多くの漫画・コミックなどが出版されるなどして「MOOMIN/ムー
ミン」は幅広い世代に浸透し、これに登場するキャラクターを使用した文房具類、枕など
の商品化権事業に係る商品が多数販売されてきた。そして、申立人は、上述のとおり、現
在でも公式オンラインショップにおいて、申立人登録商標を含む「MOOMIN」関連商標を使
用して、枕や布団などを含む数多くの商品を販売するとともに、「MOOMIN/ムーミン」の専
門店を日本各地に展開している。
 これらのことは、現在においても、「MOOMIN」関連商標に係る商品について、需要がある
ことを示すものであるのみならず、「MOOMIN/ムーミン」のテレビアニメーションが放送さ
れ、それに関連した商品が販売されていた(本件ドメイン名が登録された)平成14年6
月13日の時点において、申立人登録商標を含む「MOOMIN」関連商標が著名であって、そ
の著名性の程度が極めて高いものであったため、現在においても大きな需要が見込めるこ
とを示すものである。
 以上より、申立人は、著名な申立人登録商標を含む「MOOMIN」関連商標を有しており、
当該商標に関する正当な利益を有している。
  イ 登録者のドメイン名が申立人登録商標と混同を引き起こすほど類似している。
   申立人登録商標である登録第4616787号商標「MOOMIN\ムーミン」と
本件ドメイン名「MOOMIN.JP」を比較すると、「.JP」部分はドメインの登録国を意味する一
般的な表示であって識別力を有しないので、本件ドメイン名において識別力を有する要部
は「MOOMIN」の部分というべきである。
 以上より、本件ドメイン名中識別力を有する要部は、著名な申立人登録商標と実質的に
同一である。したがって、本件ドメイン名は、少なくとも申立人登録商標と混同を引き起
こすほど類似している。
 よって、紛争処理方針4条a(i)の要件、すなわち、「登録者のドメイン名が、申立人が
権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似し
ていること」を充足する。

(Ⅱ)登録者の主張
 ア 申立人が登録商標に関する正当な利益を有していること
  「MOOMIN」というアルファベットの綴り自体は,すくなくとも日本においては,キャ
ラクターのカタカナ呼称である「ムーミン」ほど著名とはいえない。
 日本国において,昭和44年からテレビアニメーションが放送されていたことは認める
が,その番組において,「ムーミン」と呼称するキャラクターについて,「ムーミン」との
表示はあっても,「MOOMIN」という表示が出ていたわけではない。また,その後のアニメー
ションにおいても,タイトルは「ムーミン」の文字が入っているだけで,「moomin」の記載
はない。
 日本語の漫画・コミック,絵本においても,少なくとも日本においては,(子ども向けで
あるから当然ではあるが,)「ムーミン/MOOMIN」や「MOOMIN」など英語表記をしたものは
見当たらない。また,申立人は,日本において日本語のオンラインショップを展開して,
物販を行っていると主張しているが,それが始まったのは,申立人が「moomin.co.jp」の
ドメイン名を所得して,公式サイトを開設した平成27年(2015年)3月4日以降の
ことである。
 したがって,すくなくとも「MOOMIN」というアルファベット綴り自体は,登録者が
「moomin.jp」のドメイン名を取得した平成14年(2002年)6月30日ころは,それ
ほど著名とはいえない。仮にその後アルファベット表記の「MOOMIN」が著名商標になった
としても,おそらく申立人関連の日本語のウェブサイトが開設された平成27年以後のこ
とであると考えられる。
 以上から,申立人が登録商標に関する正当な利益を有していない。「混同を引き起こすほ
ど」という評価はできない。
イ 登録者のドメイン名が申立人登録商標と混同を引き起こすほど類似しているか。
   認める。

(Ⅲ)紛争処理パネルの判断
   本件ドメイン名登録時点である平成14年(2002年)6月13日時点で、申立
人の所有する「ムーミン」は著名であったことは、フジテレビ系やテレビ東京系で「ムー
ミン」が放送されていたことから明白である。しかし登録者が主張するように「MOOM
IN」については、著名であったかは定かではない。しかし、登録者のドメイン名が、申
立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど
類似していること(処理方針第4条a項ⅰ号)の点について、商標自体が著名であること
は要件ではなく、又証拠からも「MOOMIN」の使用が日本でも散見されること、「MO
OMIN」の称呼は「ムーミン」であり、「ムーミン」自体は本件ドメイン名登録時点であ
る平成14年(2002年)6月13日時点には著名であること、「MOOMIN/ムーミ
ン」の商標は、登録第4616787号(出願日平成10年12月2日、商願10-10
2644、登録日平成14年11月1日)であり、本件ドメイン名の取得以前に商標登録
されていることから、登録者のドメイン名である「moomin.jp」が、申立人が権利または正
当な利益を有する商標その他表示(「MOOMIN\ムーミン」)と同一または混同を引き
起こすほど類似している(処理方針第4条a項ⅰ号)と認定出来る。


(2)登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと(処
理方針第4条a項ⅱ号)
 紛争処理方針4条cは「ⅰ.登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者ま
たは紛争処理機関から通知を受ける前に、商品またはサービスの提供を正当な目的をもっ
て行うために、当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、または明
らかにその使用の準備をしていたとき、ⅱ.登録者が、商標その他表示の登録等をしてい
るか否かにかかわらず、当該ドメイン名の名称で一般に認識されていたとき、ⅲ.登録者
が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利
得を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、
当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用しているとき」には、登録者
は当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していると認めなければならない
と規定されている。
(Ⅰ)申立人の主張
 登録者は不正の目的で本件ドメイン名を登録および使用しているのであり、本件ドメ
イン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関から通知を受ける前に、商品また
はサービスの提供を正当な目的をもって行うために、当該ドメイン名またはこれに対応す
る名称を使用またはその使用の準備をしていたとはいえない。
 登録者は、「夢眠工房」という登録者商標を有しているものの、「MOOMIN」の文字を含む
商標を有しているわけではない。また、登録者の登録者商標、ツイッター等における表記
から明らかなように、登録者は、「夢眠工房」の名称で需要者に認識されているのであって、
「MOOMIN」で認識されているわけではない。
 登録者の本件ドメイン名の使用態様に鑑みると、登録者は、著名な申立人登録商標を含
む「MOOMIN」関連商標を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得
る意図を有しているといえるとともに、当該商標が有する高い評価を希釈化して同商標の
価値を害する意図を有しているともいい得る。したがって、登録者は、本件ドメイン名を
非商業的目的に使用し、または公正に使用しているとはいえない。
(Ⅱ)登録者の主張
ア.登録者の事業展開や営業の実態および当該ドメイン名を取得するに至った経緯につい
て
 上記のアについて紛争パネルが認定できる事実について列挙する。
(ア)登録者は,平成3年3月の会社設立より,顧客一人一人に合ったオーダー枕や布団
などの高級寝具の販売をする事業を行っている。
(イ)平成12年ころ,登録者は,平成13年3月1日に,上記「夢眠工房」を特許庁に
商標登録出願を行い,平成14年1月25日,商標登録された。
 その際,同商標の呼び名として「夢眠工房」を「ムミンコーボー」「ユメミンコーボー」、
「ムーミンコーボー」「ムミン」「ユメミン」「ムーミン」とする呼称が参考情報として記載
されて登録され、「夢眠工房」の「夢眠」の部分は、「ムーミン」の称呼も生ずる。
(ウ)平成14年6月13日に「moomin.jp」のドメイン名を取得した。ドメイン上に「夢
眠工房」で提供する商品・サービスの情報を掲載するウェブサイトを開設し,それまで情
報誌への広告,口コミによる来店や電話に頼っていた営業に加えて,インターネット上で
も詳しく商品案内や店舗案内をして,業務拡大を図ることとした。ホームページの開設日
は、乙3では、2011年7月(平成23年)以降の記事が掲載されている。
 また,登録者の従業員の業務用メールアドレスも,全面的に当該ドメインに統一するこ
ととしたようだが、日付けについては不明である(乙4)。
 その後,登録者は,遅くとも平成22年10月にはツイッター(乙5)を,遅くとも平
成23年6月にはFacebookのページ(乙6)を,それぞれ「夢眠工房」の名称で開設し,
店舗および取扱商品・サービスに関するさらなる情報発信を開始した。
(エ)乙7の1では、登録者は,「夢眠工房」の商標のもと,オーダー寝具を販売したが、
その日付けは曜日から平成22年9月17日金曜日と推定した。ここでは、「夢眠工房」の
名称で阪急百貨店大井町店に出店し販路拡大を行う(乙7の1,2)。平成23年の広告で
「夢眠工房」の名称で,お布団のキャンペーンをしている(乙9の2)。同様に平成22年
の「夢眠工房」の広告も存在する(乙9の3)。
(オ)その間,平成13年12月12日にはテレビ東京の情報バラエティ番組「アドマチ
ック天国」にて,そのころには珍しいオーダー寝具の店舗として「夢眠工房」が紹介され
た(乙10)。
 以上より登録者が、「夢眠工房」の名称で平成13年よりオーダー寝具を販売していてお
り、関連のチラシ広告、或いはツイッター、Facebookを発信していることが認められ、
「moomin.jp」のドメイン名は、「夢眠工房」として使用されて、「夢眠工房」はムミンコウ
ボウの称呼が生ずるが、その略称として、ムーミンを称呼が生じると認定できる。


イ.登録者が,当該ドメイン名に係わる紛争に関し,第三者または紛争処理機関から通知
を受ける前に,商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために,当該ドメイ
ン名またはこれに対応する名称を使用していたことについての登録者の主張について(紛
争処理方針4条c(ⅰ))
 上記経緯でも述べたように,平成14年1月の事業ブランドとしての「夢眠工房」(呼称
「ムーミンコーボー」「ムーミン」)の商標取得以来,日本知的財産仲裁センターから通知
を受ける現在まで,当該ドメイン上のウェブサイトを中心とした広報方法をもって,一貫
してオーダー枕等の寝具および睡眠改善サービスを提供・販売する事業を行っている(な
お,事業内容,営業方法自体は平成3年の会社設立以来全く変わっていない)。
 また,当該ドメインは,上記事業を遂行するための登録者従業員の業務用メールアドレ
スとしても使用している(乙4)。
 そして,当該ドメイン上のウェブサイトや,当該ドメイン名の記載のあるFacebookや
Twitterは,すべて上記事業を広く展開するためにのみ使用している。
 なお,ウェブサイトを立ち上げ始めた平成14年6月ころより現在まで,登録者は,一
度も,第三者から,申立人の商標にかかる「ムーミン」や「moomin」と紛らわしいなどと
クレームを受けたこともないし,関係があるのかという問い合わせを受けたこともない。
 当紛争処理パネルは、登録者のここでの主張が、本件ドメイン名を使用して、「夢眠工房」
ウエッブサイトを立ち上げていることを認めることが出来る。
 なお、Twitter等については、具体的な主張の部分で後述する。

ウ.登録者が,申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより
商業上の利得を得る意図,または,申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有す
ることなく,当該ドメイン名を公正に使用していること(紛争処理方針4条c(ⅲ))の登
録者からの主張と検討について
(ア)申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の
利得を得る意図がないことについて
(Ⅰ)登録者の主張
 (ⅰ)登録者は,店舗において,事業ブランドとしての「夢眠工房」との記載をしてい
るだけであり,「ムーミン」と呼称するキャラクターを惹起するような提供商品やサービス
を展開してもいないし,ウェブサイト上でも同様である(乙3)。
 (ⅱ)登録人のFacebook(乙6)においては,右方のプロフィール部分に「moomin.jp」
の記載があるが,これは同ドメイン上にあるウェブサイトにアクセスして,商品情報等を
受け取ってもらうためにウェブサイトのあるドメイン名をそのまま記載しているだけであ
り,なんら不当な目的に使用しているのではない。なお,「moomin.jp」の記載は,リンク
となっており,簡単にウェブサイトに遷移するようにしてあるが,通常の使用方法である。
 (ⅲ) ツイッター(乙5)については,「夢眠工房」という名称表示の左横に「moomin.jp」
の記載があるが,これも同ドメイン上にあるウェブサイトにアクセスして,商品情報等を
受け取ってもらうために記載しているだけであり,なんら不当な表示方法ではない。
(Ⅱ)紛争処理パネルの検討
  (Ⅰ)の(ⅱ)のFacebookの「moomin.jp」の記載は、簡単にウェブサイトに遷移す
ることを目的としており、「moomin.jp」サイトを立ちあげると、「夢眠工房」のサイトが表
示される。又(Ⅰ)の(ⅲ)のツイッター(乙5)では、「MOOMIN.JP-夢眠工房」と
して、使用され、「MOOMIN」が即「ムーミン」を連想されるように表示はされていな
い。
 以上より、登録者は、申立人の商標「ムーミン」を利用して、消費者の誤認を引き起こ
すことは無く、そこでの申立人の商業上の利得を得る意図は見いだせない。

(イ)申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有していないこと
(Ⅰ)登録者の主張
  登録者は,オーダー寝具の販売および睡眠改善サービスを正当に提供する会社であ
り,なんら申立人の商標等を毀損する行為をしていない。
 また,キャラクター等の「ムーミン」を惹起させて,それを貶めたり,その有するイメ
ージを毀損するような行動や言動,投稿のようなインターネット上に表象させるような行
為もしていない(乙3,乙5,乙6)。
 以上より,登録者が,申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図はない。

(Ⅱ)紛争処理パネルの検討
   この点については、登録者の主張は、認められる。
(ウ)当該ドメイン名を公正に使用していること
(Ⅰ)登録者の主張
   登録者は,当該ドメイン名を使用し,そのドメイン上に実際に店舗で販売している
商品や睡眠改善サービスの内容を記載したウェブサイトを展開し,顧客に店舗での販売を
する上での情報を提供している(乙3)。
 また,当該ドメインは,上記事業を遂行するための登録者従業員の業務用メールアドレ
スとしても使用している(乙4)。
 このように,通常のウェブサイトやメールアドレスの使用方法に従っているにすぎず,
登録者は,当該ドメインを公正に使用している。
(Ⅱ)紛争処理パネルの検討
   前述したように、「moomin.jp」サイトを立ちあげると、「夢眠工房」のサイトが表示
され、又本件ドメインが、業務上のメールアドレスとして使用されており、このような使
用について、登録者は、申立人の商標「ムーミン」を利用して、消費者の誤認を引き起こ
すことは無く、そこでの申立人の商業上の利得を得る意図は見いだせないのであり、結論
として、登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関か
ら通知を受ける前に、商品またはサービスの提供の目的をもって行うために、当該ドメイ
ン名またはこれに対応する名称を使用しており、登録者には、申立人の商標を利用して消
費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図を見いだせない或いは申立人
の商標の価値を毀損する意図が見い出せないので、申立人主張の(2)登録者が当該ドメ
イン名に関係する権利または正当な利益を有していないことについての立証が無いことと
なる。
 (結論)以上より、(2)登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有
していないこと(処理方針第4条a項ⅱ号)についての、申立人の主張は認定できない。

(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること(処理方
針4条a項ⅲ号)
ア 登録者の本件ドメイン名の使用態様
(Ⅰ)申立人の主張
   紛争処理方針4条b(ⅳ)によれば、登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウ
ェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに登場する商品およ
びサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を
生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはそ
の他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用しているときに
は、当該ドメイン名の登録または使用は、不正の目的に基づくものと認めなければならな
いとされている。
 本件では、登録者はウェブサイトにおいて本件ドメイン名「MOOMIN.JP」を使用等してい
る。大手検索システムのGoogleにおいて、「MOOMIN 枕」、「MOOMIN 布団」と入力して検
索した場合、検索結果に本件ドメイン名に係るウェブサイトのページタイトル(「夢眠工房
|寝ることが楽しみになる寝具の専門店」とのページタイトル)が表示され、需要者は当
該ウェブサイトにて夢眠工房の商品・役務を閲覧することが可能である。
 また、登録者は、ツイッター(https://twitter.com/moominkobo)において、登録者の
ハンドルネームとして「MOOMIN.jp-夢眠工房」を、ユーザー名として「@moominkobo」をそ
れぞれ使用している。登録者は、かかるツイッターにおいて、「オーダー枕と羽毛布団が人
気の寝具専門店。」などと説明している(証拠書類12)。さらに、登録者は、フェイスブッ
クにおいて、ユーザー名として「夢眠工房/Moominkobo」を使用している。そして、登録
者は、かかるフェイスブックの「ページ情報」において、「オーダー枕・羽毛布団、真綿絹
布団、ボディードクターなど寝具のプロフェッショナルが目利きしたセレクト寝具取扱い。
高気圧酸素カプセル併設」と記載している(証拠書類13)。
 また、登録者は、上記の登録者のウェブサイト、ツイッター等において、登録者が運営
する寝具専門店である「夢眠工房」(登録者の登録第4538331号商標)が提供する商品・役
務の広告を行っている。
 登録者商標および登録者が運営する寝具専門店の名称が「夢眠工房」であることや、登
録者の商号が株式会社ユー・コムであることに鑑みると、登録者が自身のウェブサイトに
係る本件ドメイン名、ツイッターにおけるハンドルネーム等として、あえて「MOOMIN」の
語を使用する必要性は何ら見出されない。
 すなわち、「MOOMIN」の語は、申立人が作った造語であり、上述のとおり、需要者は、
「MOOMIN」の語について、トーベ ヤンソン氏の著作に係る「ムーミントロール」の略称、
テレビアニメーションのキャラクターおよび申立人の業務に係る各種商品や役務の出所を
表するものと理解するのであって、それ以外の意味として理解するものではない。
 これに対し、「夢眠工房」は、上記登録者のウェブサイトにおいて、「夢眠工房は、お客
様一人ひとりに最適な寝具の提案とアフターケアを提供できる“あなたの大切な眠りをサ
ポートする” 寝具専門店です。」と表記しているように(証拠書類14)、枕、布団等の商
品・役務を提供することで、需要者の眠りをサポートすることを目的としている。そうだ
とすれば、「夢眠工房」を通じた登録者の事業目的と、申立人の「MOOMIN」とは全く関係が
なく、登録者にとって、「MOOMIN」の文字を使用する必要性はない。もとより、「MOOMIN」
が著名な造語であることに鑑みると、登録者による本件ドメイン名の選択が、申立人の
「MOOMIN」関連商標とは関係がない単なる偶然であるとは解し難い。
 また、「夢眠工房」の上記の事業内容も踏まえると、「夢眠工房」の「夢」は一般的な「睡
眠中に持つ幻覚」を意味するものとして用いられていると解される(証拠書類15)。かか
る「夢」の読み方は、通常「ム」であって、「ムー」ではない(証拠書類16)。したがって、
「夢眠」のアルファベット表記は通常、「MUMIN」であって「MOOMIN」ではなく、登録者が
「MOOMIN」の文字を本件ドメインに含める合理的必要性は全くない。
 さらに言えば、「夢」の文字を「ム」と称呼する「夢」を含む熟語には「夢想」(夢に見
ること。証拠書類17)および「無我夢中」(我を忘れるほど、ある物ごとに熱中することの
意味。証拠書類18)など数多くのものが存在するところ、「夢」の文字を「ムー」と称呼す
る「夢」を含む熟語は発見できない。してみれば、需要者が「夢眠工房」を見た際の通常
の読み方は、「ムミンコウボウ」となるのが通常であり、これをあえて「MOOMIN」の文字を
使って表記する必要性は本来全く存しない。
 さらに言えば、百歩譲って、「夢眠工房」が「ムーミンコウボウ」と称呼されることがあ
り得るとしても、そもそも、本件ドメイン名においては、「コウボウ/KOUBOU」の部分が省
かれているうえに、申立人を意識していないのであれば、「ムーミン」の称呼部分は「MUUMIN」
とアルファベット表記されるはずであって、「MOOMIN」となるはずがない。
 そうであるにもかかわらず、登録者があえて「MOOMIN」の文字を含む本件ドメイン名を
選択・登録し、かつ本件ドメイン名を登録者のウェブサイトおよびツイッター等において
使用しているのは、「夢眠工房」が商標登録されたことを足掛かりに、当該商標のアルファ
ベット表記とはかけ離れるとともに著名な申立人登録商標と実質的に同一の「MOOMIN」の
文字を含む本件ドメイン名を意図的に選択・利用して、本件ドメイン名にかかるウェブサ
イトが、申立人と関連性を有するウェブサイトであるとの需要者の誤信を生じさせるなど、
申立人の「MOOMIN」関連商標の著名性に乗じて商業上の利益を図る目的にでたものという
べきであり、「MOOMIN/ムーミン」と関連するウェブサイトおよびツイッター等であると誤
認混同した需要者を登録者のウェブサイトおよびツイッター等に誘引する意図によるもの
という他はない。
 さらに加えるならば、上記のとおり、登録者は、ツイッターにおいて、「MOOMIN.jp-夢眠
工房」という本件ドメイン名を含む標章(以下「本件使用標章」という。)を、ハンドルネ
ームとして目立つように使用しているところ、当該行為は申立人登録商標にかかる商標権
を侵害する行為に該当するものと解される。
 すなわち、上述のとおり、「MOOMIN」の語が、申立人の商品・役務に係る出所を表示する
ものとして、需要者の間で著名であることからすると、本件使用標章における「MOOMIN」
の部分は、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものということができ、この部
分のみを抽出して申立人登録商標と比較して、本件使用標章と申立人登録商標の類否を判
断することができるものと解される。したがって、本件使用標章における「MOOMIN」の部
分と申立人登録商標とは実質的に同一であることから、両者は、相互に類似している。ま
た、登録者は、ツイッターにおいて、自社のことを「オーダー枕と羽毛布団が人気の寝具
専門店」などと紹介したり、酸素カプセルについて紹介したりするなどして、申立人商標
の指定商品である「まくら」、「布団」および「外科用・内科用・歯科用及び獣医科用の機
器」と同一・類似する申立人の商品の広告を行っている(証拠書類12)。したがって、登録
者の上記行為は、申立人登録商標にかかる商標権を侵害する行為に該当するものであり、
この点からも、登録者は、本件ドメイン名を標章として利用し、申立人商標にかかる商品
との出所の誤認混同を生じさせるおそれのある行為を積極的に行っている。商標権侵害の
点については、申立人は、平成30年6月7日付け通知書をもって既に登録者に通知して
いるにもかかわらず(証拠書類19)、依然として、当該行為が継続されていることからす
ると、登録者は、悪質な態様で本件ドメイン名を利用しているものと言わざるを得ない。
 (申立人の主張の要約)
 登録者商標および登録者が運営する寝具専門店の名称が「夢眠工房」であることから、
登録者の著名な造語である「MOOMIN」の語を使用する必要性は何ら見出されない。登録者
の「夢眠工房」は、「ムミンコウボウ」と読むべきであり、「MOOMIN」とは無関係である。
 登録者は、ツイッターの「MOOMIN.jp-夢眠工房」は、申立人登録商標にかかる商標権を
侵害する行為である。
 登録者は、ツイッターで「オーダー枕と羽毛布団が人気の寝具専門店」と紹介したり、
酸素カプセルについて紹介したりするなどして、申立人商標の指定商品である「まくら」、
「布団」および「外科用・内科用・歯科用及び獣医科用の機器」と同一・類似する申立人
の商品の広告を行っている(証拠書類12)。したがって、登録者の上記行為は、申立人登
録商標にかかる商標権を侵害する行為に該当する。以上の侵害行為について警告したが、
使用の中止をしない。
(Ⅱ)登録者の主張
  yahoo!japan,bing,MSN(検索エンジンはbingを使用),exciteなどで,「ムーミン」
「moomin」といった直接の検索ワードはもとより,「ムーミン 寝具」と入力して検索して
も,少なくとも検索上位である1ページ目には,申立人およびその他第三者のサイトしか
表示されず,登録者の情報は1つたりとも出てこない(乙19の1~3)。
 確かに,googleの検索エンジンにおいてだけは,「ムーミン 寝具」と検索条件を入れ
れば,「夢眠工房」の表示は出る。しかし,これは,地図表示に付随して夢眠工房の店舗と
しての情報が出るだけ(乙19の4)で,純粋に検索結果として表示されているとはいい
がたい。
 このように,登録者の商品やサービスが,申立人から販売されていると誤認混同したり,
スポンサーシップ,取引提携関係,推奨関係等登録者と申立人との間になんらかの関係が
あると一般消費者が誤認混同するような本件ドメイン名の使用はしていない。
(Ⅲ)紛争処理パネルの検討
  申立人主張の「夢眠工房」が、「MOOMIN」とは無関係であるとの主張は、「夢眠」の
部分が「ムーミン」の称呼も生ずるので無関係であるとは言えない。
 ツイッターの「MOOMIN.jp-夢眠工房」の記載は、申立人の商標の指定商品との関係から、
商標権侵害の可能性は有るのでその点について検討する。
 申立人の主張では、「登録者は、ツイッターの「MOOMIN.jp-夢眠工房」は、申立人登録商
標にかかる商標権を侵害する行為である。登録者は、ツイッターで「オーダー枕と羽毛布
団が人気の寝具専門店」と紹介したり、申立人商標の指定商品である「まくら」、「布団」
および「外科用・内科用・歯科用及び獣医科用の機器」と同一・類似する申立人の商品の
広告を行っている」と主張するが、登録者の広告の掲載は、「オーダー枕と羽毛布団が人気
の寝具専門店」とあるが、具体的な商品は掲載されておらず、商標法2条3項6号の「商
品に関する広告に商標を付して電磁的な方法によって提供する行為」に該当しない。「酸素
カプセル」についても同様である。したがって申立人の主張である商標権侵害は認定でき
ない。
 よって、申立人主張の紛争処理方針4条b(ⅳ)の事実は認定できない。

イ 金銭取得の意図
(Ⅰ)申立人の主張
  紛争処理方針4条b(i)によれば、登録者が、申立人または申立人の競業者に対して、
当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、
当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主たる目的として、当該ドメイン名を
登録または取得しているときにも、当該ドメイン名の登録または使用は、不正の目的に基
づくものと認めなければならない。
 本件では、登録者は申立人に対して、平成27年5月19日付け「ご連絡」と題する書
簡において、本件ドメイン名の譲渡対価として、金3000万円という高額な譲渡対価を
提示した(証拠書類20)。
 3000万円は、ドメイン名の登録・更新にかかる一般的な費用に比して極めて高額で
ある。例えば、証拠書類21および22は、ドメイン名の登録事業を行う会社のホームペー
ジであるが、いずれもドメイン名の登録料は金3000円以下となっている。
 これに対して、申立人は登録者に対し、平成30年6月7日付け通知書をもって、本件
ドメイン名の譲渡対価として金50万円を提案した。
 しかし、平成30年6月11日、登録者は申立人に対し、電話にて、金50万円では全
く金額が足りないなどと述べたうえで、登録者が平成27年5月19日付け書簡において本
件ドメイン名の譲渡対価として、金3000万円を提示した理由が下記の点にあるとの説
明をした(証拠書類23、平成30年6月21日付け通知書)。
           記
①登録者には、本件ドメイン名を長らく使用してきた実績があること
②登録者は、新聞、ウェブサイトなどにおいて、本件ドメイン名を広く使用しており、こ
れを変更するには多大な労力等を有すること
③登録者の代表取締役である武田登美子氏には米国に在住の弟がおり、その弟に相談をし
たところ、米国ではこの種の案件(ドメイン名の譲渡を要請する側が大企業である案件)
では、億単位の譲渡対価となるのが通常であること
④登録者は、申立人に対し、金3000万円という金額を提示する際に、申立人が日本で
テーマパークを作る予定であるという話を耳にしており、申立人において、本件ドメイン
名を使用したいであろうことを認識していたこと
 登録者は、申立人による日本における事業拡張の予定を知り、申立人において本件ドメ
イン名を使用したいであろうことを認識していたというのであるから、登録者による金3
000万円の提示行為は、申立人の著名な「MOOMIN」の表示が含まれる本件ドメイン名を
何ら正当な理由もなく取得しておきながら、シンプルな文字列からなる本件ドメイン名を
使用したいという申立人の弱みに付け込んで極めて高額の対価を要求したものと評価でき
る。
 以上の事実に照らせば、登録者は申立人に対して、本件ドメイン名に直接かかった金額
(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、本件ドメイン名を登録または取得
したものであるとともに、登録者の行為は公正な取引秩序にも反するものである。
 よって、登録者は、不当な対価で本件ドメイン名を販売、貸与または移転することを主
たる目的として、本件ドメイン名を登録したものとして、紛争処理方針4条b(i)所定の不
正の目的が認められる。
(Ⅱ)登録者の主張
   登録者が,「moomin.jp」ドメイン名を取得したのは,平成14年6月である。そし
て,間を置かず,自らの店舗の商品・サービスの情報を載せたウェブサイトを「moomin.jp」
ドメイン上に展開し,爾後,それを現在まで16年以上維持している。
 その間,登録者は,一度も,申立人に対し,あるいは申立人の競業者に対し,自ら,当
該ドメインを買い取ってほしいなどと連絡したことはない。
 この点,申立人は,登録者が,平成27年5月19日に,当該ドメイン名の譲り渡し金
額として,3000万円を提示したことをもって,当該ドメイン名を販売,貸与または移
転することを主たる目的として,当該ドメイン名を登録または取得していたと主張するが,
以下の事実に鑑みれば,そのような目的をもって当該ドメイン名を取得したのでないこと
は明白である。
 すなわち,まず,平成17年頃,申立人の代理人と称する人物より,英文のメールで,
申立人の商標に係るキャラクター入りの布団カバーを日本国内で販売して欲しいとの共同
事業の打診があった。その際は登録者の方から採算が合わないと断りを入れた。
 その後,全く申立人側から音沙汰はなかったが,平成26年3月17日,突然,申立人
の代理人弁護士から,申立人の商標は不正競争防止法によって保護されており,登録者に
は当該ドメイン名を保持する権限がないと,あたかも登録者が不正なことを行っているか
のごとき内容の書面が到達した(乙14)。
 10年以上苦労して消費者への「夢眠工房」の認知に努めていたところに,いきなりこ
のような書面が来たことに登録者は憤慨したが,同書面には買い取りたいとの記載もあっ
たため,登録者代表者である武田富美子氏(以下「武田氏」という)自身が同代理人と電
話で連絡をとり,その真意を確認することとした。
 その後,武田氏と申立人代理人との間で電話やメールでのやりとりを何度か行ったとこ
ろ,最終的に,申立人代理人より,50万円でならば買い取るとの連絡が来た(乙15)。
 登録者としては,前述のように,長期間苦労してウェブサイトやFacebook,ツイッター
で「夢眠工房」の消費者への認知に努めていた上,一枚刷り広告や情報誌のような広告媒
体上にウェブサイトアドレスを載せ(乙9の1~3),またウェブサイトアドレスや会社メ
ールを記載した名刺(乙4)なども作成していたことから,それらを作り直す費用が必要
にもかかわらず,申立人や登録者と全く関係のない他の事例を引き合いに出し,想像以上
の低廉な買取額が提示されたため,その大上段な姿勢に憤慨し,3000万円で買い取っ
てほしい,それでも買うというならば売るとの意思表示として,代理人を通じて,書面を
提示したのである(証拠書類20)。
 しかし,申立人は代理人を通じて断りの連絡を入れてきた。
 その後も,しばらくは,本当に申立人に買い取り希望があるならば,申立人側からもう
少しこちらの事情を考慮した話を持ってくるだろうくらいに考えていたが,その後一切音
沙汰がなくなったため,登録者は,申立人は買い取る気がなくなったのだろうと考えるよ
うになった。
 登録者としては,ぜがひでも申立人に買い取ってほしいわけではなく,いままでどおり
当該ドメイン名を維持して,ドメイン名を記載した広告等の紙媒体を作り直さず商品やサ
ービスを展開できればよいと考えていたため,登録者の方から,申立人や申立人代理人に
一切連絡をすることもなかった。
 その後,登録者が,上記紛争や交渉は終わったものと考えていた平成30年6月7日,
申立人から通知書が届いた(乙16)。
 内容は,登録者の当該ドメイン名の使用が不正競争防止法上の不正競争にあたる,(前回
と同様)50万円にて買い取る,応じなければ法的措置に訴えるとの内容であり,以前と
変わらない大上段なものであった。
 登録者はまたも憤慨し,申立人代理人に抗議の意味も込め連絡したが,その返答として
申立人代理人より書面にて回答が来た。しかし,それは,長期に事業を行ってきた登録者
の事情も考慮せず,当該ドメインを取得して以降10年以上ほとんど登録者の事業内容や
営業方法に関心を示さなかった自らの責任を棚に上げ,登録者の側に一方的に問題がある
かのような内容であった(乙17)。
 そのため登録者はさらに憤慨したが,さりとてこのような紛争が長く続き,事業に影響
することを憂慮し,代理人を通じて,交渉することとした。登録者としては,早期解決を
最大のメリットとして,現在までのかけた費用およびこれから変更にかかる費用を若干な
りとも回収する必要も考慮し,300万円程度の額ならば譲渡すると提案したが,登録者
からは最大で65万円と登録者の事情を全く考慮しない額を提示された(乙18)ため,
交渉を打ち切らざるをえなかった。
 以上のような事実に鑑みれば,申立人が,ことさら金額をクローズアップして,登録者
が申立人に当該ドメイン名を売りつけるために当該ドメインを取得したと主張することが
事実でないことは明白であり,登録者が,当該ドメイン名を販売,貸与または移転するこ
とを主たる目的として,当該ドメイン名を登録または取得していないことは明らかである。
(Ⅲ)紛争処理パネルの検討
   登録者は申立人に対して、平成27年5月19日付け「ご連絡」と題する書簡にお
いて、本件ドメイン名の譲渡対価として、金3000万円という高額な譲渡対価を提示し
た(証拠書類20)。これに対して、申立人は登録者に対し、平成30年6月7日付け通知
書をもって、本件ドメイン名の譲渡対価として金50万円を提案した。登録者は,早期解
決を最大のメリットとして,現在までのかけた費用およびこれから変更にかかる費用を若
干なりとも回収する必要も考慮し,300万円程度の額ならば譲渡すると提案した。しか
し,登録者からは最大で65万円と登録者の事情を全く考慮しない額を提示された(乙1
8)ため,交渉を打ち切った。
 以上が経緯である。登録者の3000万円とその後の300万円との差額は歴然として
おり、登録者が、申立人に対して、当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認でき
る金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、または移転することを目的
として、当該ドメイン名を登録または取得したと一応認定できる。
 しかしながら登録者も「夢眠工房」の名称で平成13年よりオーダー寝具を販売してお
り、関連のチラシ広告、或いはツイッター、Facebookを発信していることが認められるの
で、本件ドメインの取得の主たる目的が本件ドメインの販売又は移転が目的であるとまで
は認定できない。

(結論)以上より、(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されて
いること(処理方針4条a項ⅲ号)についての申立人の主張は認定できない。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「moom
in.jp」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似しているが、登録者がドメイン
名について権利又は正当な利益を有していないとは認定できず、登録者のドメイン名が不
正の目的で登録され且つ使用されているものとは認定できないと裁定する。
 よって、本件申立は、処理方針第4条a項ⅱ号及び同ⅲ号の要件が充足されないため、
申立人の申立は理由がなく、移転請求を認めることができないので、主文のとおり棄却す
る次第である。

    2019年3月28日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
                            パネリスト名
              単独パネリスト     渡 邊    敏

別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      2019年1月29日(電子メール)及び1月30日(書面)
(2)手数料受領日
      2019年1月30日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2019年1月30日  JPRSへ照会
      2019年1月30日  JPRSから登録情報の回答
      回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに
登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2019年1月31
日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
      1) 申立書送付日(手続開始日) 2019年1月31日(電子メール及び郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2019年3月1日
(6)手続開始日  2019年1月31日
      センターは、2019年1月31日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送
で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは、2019年3月1日に答弁書を受領し、処理方針と規則に照らし答弁
書が適合していることを確認し、2019年3月5日に電子メール及び郵送で申立人に送
付した。
(8)パネリストの指名 2019年3月7日
      申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      言明書の受領日:2019年3月18日
      パネリスト:弁護士 渡邊 敏
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2019年3月7日  JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
                         申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
      裁定予定日:2019年3月28日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2019年3月7日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2019年3月28日  審理終了、裁定。